王女殿下似乎要生气吧 关注:3,678贴子:14,012
  • 0回复贴,共1
55 王女殿下は学園祭に参加するそうです(前編)
 ルーカスに展示の許可をもらった日から学園祭当日までの一週間は怒涛の日々だった。
 まず、展示許可は普通一ヶ月前に申請を行って準備をするというのが通常であるのに、魔法同好会は一週間しか時間がない上に、道具もほかの団体が借りていたりと作業にかなり苦労した。
 レティシエルやジーク、ミランダレットが魔術で時々補助していなければ危なかったかもしれない。
 それからイドリアヌス紋の製作についてもバリーの腕が本調子でない今、彼一人で生産するのは無理があるため、ジークがバリーに弟子入りして伝授してもらうことになった。
 おかげでジークは、日中は設営準備で放課後は刺繍作業、というかなりハードな日々を過ごす羽目になったが、本人は気にするそぶりもなく、イキイキと楽しそうにしていた。
 元々毛織り物が得意だったこともあり、この一週間のジークの刺繍の上達っぷりは凄まじく、バリー曰く、付きっきりで教えたら二ヶ月くらいで一端の仕立て職人として独り立ちできるほどだ、とのことである。
「一時はどうなることかと思いましたけど、何とか間に合ってよかったです」
「そうですね。これも皆さんの協力のおかげですよ」
 やってきた学園祭の当日、設営が終わった部屋を見渡しながらレティシエルとミランダレットは窓の外を眺めながらこの一週間のことを思い出していた。
「ええ、一週間前にはこんなことになるとは考えもしていませんでした」
 部屋の隅の方の椅子に座って刺繍しながら、ジークが懐かしそうに目を細めて雲ひとつない青空を窓から見上げる。
 開け放たれた窓から爽やかな秋風が吹き込み、ジークの持っている美しい薔薇の花が刺繍された布をふわりと揺らした。
「本当にありがとうございます、皆様。本来なら私たち身内で片付けなければいけない事ですのに、皆様まで巻き込んでしまいまして……」
 織機と刺繍針、刺繍糸の具合や数をチェックしていたバリーが複雑そうな表情で頬を掻いた。
「そんなことはありません。私たちは私たちの意思でお力になろうと決めたのです。申し訳なく思う必要なんてどこにもないですよ」
 レティシエルの言葉にミランダレットたちは揃って頷き、バリーはますます恐縮して頭を下げた。
「ドロッセル様ー!学園祭開始時刻が過ぎたので外の様子を見てきます!」
「お願いしますね、ヒルメス様」
 元気な声とともに部屋に飛び込んできたのはミランダレットの婚約者のヒルメスであった。
 レティシエルたちが使っているこの部屋は、学園祭の順路からは一番離れた位置にある。別に嫌がらせを受けたわけではなく、単純にギリギリになって申請したからここ以外残っていなかっただけである。
 万が一にも貴族方が来てくれないとなるとこの計画の意味がないので、声が大きいヒルメスには、ちょっとした客引きのような仕事を頼んでいた。
「おはようございます!追加の布はここに置いておきますね」
 ヒルメスと入れ違いに、エディが大きな木箱を抱えて入って来た。
「ああ、エディさん。ありがとうございます」
「いえいえ。また何かあれば言ってください!」
 エディは表の準備などには関わっていないが、刺繍用の糸などの仕入れや運搬を全てやってくれた。一週間という結構ギリギリの時間だったにも関わらず、必要な材料などは全部取り寄せてくれたのだ。
「さて、俺もちょっと席を外しますね」
「あら、エディさん。帽子がズレていますよ」
「おっ、ホントだ!ありがとうございます」
 頭にかぶっている小さな毛織の帽子を直し、無精髭をひと撫でしてエディは部屋を出る。なんでも、今日は知り合いが来ているらしく、その人を探しに行くのだとか。
「……皆さん、来てくれるでしょうか?」
 部屋の入り口に置いてある受付席に座りながら、ヴェロニカは廊下の様子をちらりと伺う。順路から外れた場所にこの展示室に人が来るのか案じているらしい。
「イドリアヌス紋を知らない貴族はいないと思いますから、気長に待ちましょう」
「そ、そうですよね!私たちは自分の精一杯を努めればいいですね!」
 万が一本当に来なかったらもっと客引きを工夫しよう、と考えながらレティシエルは部屋に戻る。しかしそんな心配は、開園一時間後くらいにはただの杞憂に終わっていた。
「ではこの模様は、イドリアヌス紋の新作と申すのか?」
「はい、そうです。こちらにおられる開発者のバリー様が、復帰後最初に縫われたものにございます」
「最初に!?ほぅ……そりゃレアですね!」
 部屋に飾ってある、イドリアヌス紋を施した小物に目移りする男性貴族に、レティシエルは解説を加える。
 ヒルメスの客引きのおかげなのか、はたまた取り上げているテーマのおかげなのか、レティシエルたちの展示室には開始早々大勢の貴族が押し寄せて来た。レティシエルが予想していたよりも遥かに、イドリアヌス紋の威力は高かった。
 想定外の客の数に、客引きを任せていたヒルメスを呼び戻さないといけないほどである。
「あら?こちらの二つの紋様はなんだか雰囲気が違いますわね」
「ええ、左のものはバリー様が縫われたものですけど、右はあちらにいらっしゃるジーク様が縫われたんです!」
「あちらの黒髪のお方がジーク様?」
「はい!ジーク様は今、バリー様の弟子としてイドリアヌス紋の縫い方を学んでおります。研究を継続できればイドリアヌス紋はもう断絶することはなく、これからも皆様の手に届くのです!」
「まぁ……!それは素敵なことですわ!」
 別の場所では、数名のご令嬢を相手にミランダレットがイドリアヌス紋の後継についての話に花を咲かせていた。
 当のジークもバリーも各々で貴族方に捕まっており、空いた時間に織機で布を織ったり、刺繍を施したりと忙しなく動き回っていた。
「そうか……息子さんはもう……すまんのう、妙なことを聞いてしまって」
「いえ、もう過ぎたことなのでお気になさらず」
 バリーと話していた老紳士が申し訳なさそうに謝罪をし、ふと何か思いついたようにあごひげを撫でた。
「そうじゃのう……どれ、イドリアヌス紋の復興にワシから幾分か資金を援助しよう」
「え?あ、いえ、そこまでしていただくなんて……」
「いやいや、ワシの娘がヴィルス織の大ファンでね。加えてこの幻の紋様が再び蘇るのだというのなら是非助力したいんじゃよ」
 老紳士のその申し出をきっかけに、そのあとも何人かの貴族が資金援助をしたいと申し出て来た。レティシエルとジークはバリーと顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべる。
「あら、とっても賑わっているのね、ドロッセル」
 その時、聞き覚えのある女性の声が聞こえて来た。
 生徒の家族に開放されている行事だからいるのは当然か、と思いながらレティシエルがそちらに目を向けると、果たしてそこには扇子を手に持って微笑むサリーニャと、その横に立つクリスタの姿があった。
「まぁ……!なんて素敵な紋様かしら。本当にイドリアヌス紋を復活させたのね」
 わざとらしく声を上げて歩み寄ってくるサリーニャにレティシエルは警戒を強める。
「ええ、現在それに向けて研究を行っているところです」
「でもドロッセル、私、噂で聞いたの。イドリアヌス紋の開発者様って、腕の怪我で二度と針を持てないのではなかったかしら?」
 周りに聞こえよがしに放たれたサリーニャの言葉に、周りの貴族たちはなんだなんだと首を傾げる。
 パサッと扇子を広げ、それでサリーニャは口元を隠す。しかし、レティシエルにはその奥で彼女の口の端が上がっている気配が感じ取れた。
「そうですよ、ドロッセルお姉さま。お姉さまがこの研究を申請したのは一週間前だと聞きましたよ?タイミングが良いと思いまして」
 天使のごとく可愛らしい笑みを浮かべながら、クリスタも話しかけてくる。
 二人の言葉を聞いて、彼女たちの目的がこの展示をかき回すことだと気付いて、レティシエルはスッと目を細める。
「私たちは前々からこの展示を企画していましたよ。展示申請は当日三日前まで可能です。一週間前に申請して何か問題でも?」
「でもそちらの開発者様、一週間前に傷だらけであなたの屋敷に運び込まれていたじゃない。かなりひどかったと聞いたけど、それも一週間で完治したのかしら?」
 言い返されても笑みを崩さず、サリーニャは探るような目でレティシエルを見る。
 なぜそんなことをサリーニャが知っているのか、とレティシエルは訝しんだが、彼女のことだからもしかしたら密偵でも動かしていたのかもしれない。
「ええ、優秀な治癒魔法の使い手が力を貸してくれましたので」
「まぁ、治癒魔法はとても稀有な存在よ?本当はあなたが治したのではなくて?」
 実際その通りなのだが、それをサリーニャに言うわけには行かず、レティシエルはどう突き返そうかと考えて一瞬だけ間を空けてしまう。
「あら、どうして何も言わないの?やっぱりあなた何か隠しているのではなくて?」
 隙ありと言わんばかりに追求してくるサリーニャだが、ジークがレティシエルの前にかばうように立った。
「あの……お話中に失礼致します」
「ジーク?どうしーー……」
「サリーニャ様、バリーさんの怪我を治したのは私です」
 サリーニャを真っ直ぐ見つめ、ジークが淀みなくそう言い切った。
 これに驚いたのはレティシエルだった。何をする気なのかとジークを見るが、彼は静かな水面のように凪いだ目でこちらに微笑みかけると、すぐにまたサリーニャに向き直った。
「……あなたのような平民が、治癒魔法を使えると言うの?」
 笑みを崩さないまま、サリーニャがパタパタと扇子を仰ぎながら観察するようにジークを見つめる。
「あなたは普段授業に出席していないと聞いていますわ。それが本当だと証明できないではありませんか」
「それは、クリスタ様だって一緒じゃないっすか!」
「……っ?!」
 そう言ってクリスタも食ってかかって来るが、今度はヒルメスが負けじと言い返す。
「ジーク様の魔力は学園一ですよ!俺たちは実際にジーク様がどデカイ魔法を使うとこだって見てるんですから」
 今まで眼中になかったヒルメスの反論にクリスタも虚を突かれたらしく、悔しそうにレティシエルを睨め付ける。
 確かにジークは学園の授業には出ていないし、生徒の中で彼の魔力の高さを知る人は少ないだろう。しかしそれはあくまで生徒たちの間で、である。
 かつてレティシエルが誤って訓練場の壁を破壊してしまった時、ルーカスはそれがジークの行いだと勘違いしたほど、学園内の教師陣はジークの魔法の威力が高いことを知っているのだ。
 そんなジークの反論に、サリーニャは分が悪いと踏んだのか、言葉を続けずに小さく鼻を鳴らして興味なさそうに扇子を仰いだ。
「……では放課後の轟音はどう説明しますの?あれはとてもではないけど魔法が出せる規模ではありませんし、何よりドロッセルお姉さまも魔法訓練場に通っていますわ」
 まだ引き下がらないクリスタは次の追求を始めるが、今度はミランダレットとヴェロニカが前に立った。
「あれは、ジーク様とヴェロニカ様が魔法を使っていたんです。クリスタ様もご存知でしょう?ヴェロニカ様は高い魔力をお持ちですし、ジーク様なんてずば抜けて魔力が高いです!」
「は、はい!そうです!私が、皆さんと一緒に魔法の練習をしていただけです!だって魔法同好会ですし……」
 二人が繰り出す露骨な追求の数々に、ミランダレットとヴェロニカもその目的を感じ取り、ドロッセルとジークを守ろうと立ち上がった。
「ドロッセル嬢は術式についての知識が非常に豊かです。だから皆で効率の良い魔法術式を教えてもらっていたのです」
 ジークの説明に周囲からほぅとため息が漏れる。レティシエルが魔法省で術式講義をするほどの知識を持っていることは知られているため、もう誰もジークの言葉を疑わなかった。
 目の前に立つジークの背中が、かつて自分をかばって命を散らしたナオを思い出させた。守ってくれようとしている彼の行動が嬉しくて、胸の片隅に相反する二つの思いが綯い交ぜになったような感情が突き刺さる。
 千年前も今も、レティシエルはいつも誰かを守っていた。それはかつての民だったり、この世界でできた大切な人だったりするが、自分が守られることにはあまり慣れていないのだ。
 友人たちを見つめながらレティシエルは自分の胸に手を当てる。息を揃えて自分を守ろうとする友人たちの姿に胸がじんわり暖かくなり、同時に言いようのない一抹の切なさも感じた。
「でもドロッセル。あなた、街で不貞な輩を成敗していたでしょう?華麗な体術を使って」
 だが感傷に浸る間も無く、サリーニャがすかさずそう続けてきた。顔には変わらず笑みが張り付いているが、顔には苛立ちが募りはじめ、その目は笑っていない。
「ええ、内緒で護身術くらい会得しておりますよ。皆様は私の存在には無頓着でございましたから全くご存知ないと思いますけど」
 今までの沈黙を破り、レティシエルはサリーニャとクリスタを交互に睨みつけてバッサリと言い放つ。そんなレティシエルの反論に今度はサリーニャが言葉を詰まらせる。
 実際その通りなのだ。今までの十数年間、公爵家は“ドロッセル”に対しては徹底的に関わろうとしてこなかった。そのためその間に彼女が何をしてどう生きていたかなど、知りようもない。
「……そうかもしれないわね。でもそのとき、あなたが素晴らしい結界魔法を使っていたと小耳に挟んだわ。それは一体どういうーー……」
 諦めの悪いサリーニャはここでも一気に畳みかけようとするが、人混みの向こうから聞こえた声がそれを遮った。
「あの……サリーニャ様、ちょっとよろしいでしょうか?」
 声が聞こえる方に目を向けると、人混みをかき分けてエディがこちらにやってきて、バツが悪そうに目を細めながら頭を掻いた。
「誰なのよ……?あなたは」
「その不貞な輩を成敗した場に居合わせた、しがない行商人でございます。その結界の話なんですが……それ、実は俺がやったんですよ」
「……え?」
 エディの告白にサリーニャの扇子を持つ手がピクリと小さく揺れる。
「サリーニャ様がどうしてそのような細かい話までご存じなのかはわかりませんが、あの結界は俺が使ったものでして」
「そんなわけは……だって確かにドロッセルだったと……」
「おそらく、目撃した方が見間違えたのだと思いますよ。なんならここで使って見せましょうか?」
 そう言うとエディは右手を前にかざし、小さな声で何か呟く。するとエディの手のひらから光球が出現し、それがパァァンと軽い音を立てて割れると白い半透明の壁がエディをすっぽりと包んだ。
 いとも素早く結界魔法を繰り出したエディに、周囲の人々が感嘆でどよめき、ジークたちも驚きの声をあげた。
「サリーニャ様のおっしゃる結界とは、これのことではありませんか?」
 涼しい顔で人懐っこい笑みを浮かべながら聞いてくるエディに、サリーニャは憎々しげに唇を噛む。
 サリーニャはあくまで密偵から話を聞いただけで、実際にレティシエルが力を使うのを見たわけでもなく、使われたのがどんな結界なのかも知らない。
 結局サリーニャは何も言い返すことができず、黙り込むしかなかった。
「……じゃあ、あの方はどうなんですの?」
 ヒソヒソと周囲から囁き声が漏れる中、クリスタはそう言いながらバリーを指差す。彼女の顔には明らかに憎悪と不機嫌の色がにじみ出ており、もう包み隠そうともしなくなっていた。
「その方、イドリアヌス紋の開発者だとおっしゃいますけど、その方が本当にイドリアヌス紋を作ったのかもわからないではありませんか」
 クリスタの指摘に部屋の中から声が一瞬消える。
 バリーがイドリアヌス紋の開発者であることは確かだが、今の彼は腕が治ったばかりでまだ最盛期にような刺繍を縫うことはできない。ましてや20年の歳月が流れているのだ。
「いいえ、バリーさんは20年前にイドリアヌス紋をーー……」
「そんなことを言って、身内で庇い合いをしているだけではありませんの?その方が開発者だという証拠はどこにあるのです?」
 ジークの言葉を遮り、クリスタが言い放つ。
 確かにバリーがイドリアヌス紋を完全に再現すること以外に、彼が本当の開発者である証拠を自分たちは差し出せないが、いい加減レティシエルはサリーニャとクリスタによる執拗な言いがかりと不毛な押し問答に飽きてきた。
「お二人とも、何をしに来られたのですか?さっきから聞いていれば途中から全く関係のない話をされますし、私に何か言いたいことがあるのでしたら後でいくらでも聞きますよ。ここは幻の技術の復興研究の成果を発表するための貴重な場で、ここに集まった方々もそれに興味を示している方ばかりです。場を荒らすのが目的で来られたのならお引き取り願います」
 レティシエルの正論すぎる言葉に、周りの貴族たちは各々の反応を示し始めた。
 その通りだと頷く人もいれば、サリーニャたちに非難の目を向ける人や言葉をつぶやく人もおり、中にはバリーの存在を疑う人もいて、あたりのざわめきは一層強くなった。
「あら、どうなさいましたの?何かございました?」
 部屋を包む喧騒を鎮めるように、不意にフワッとした柔らかい女性の声が響く。
 みんなの視線が入り口に集まる中、ウェーブのかかった淡い金色の髪と透き通るような白い肌、優美な佇まいの美しい貴婦人が、栗色の髪をポニーテールにした少女とハニーブロンドのボブヘアの少女を連れて部屋に入って来た。
 見覚えのあるその二人の少女に、レティシエルは怪訝そうに目を瞬かせるのだった。


IP属地:广东1楼2019-10-02 22:17回复